帝国ホテルといえば、日本を代表する高級ホテル。そのメインダイニング「レ セゾン」で2022年6月まで副支配人を務めていた松尾直幹シェフも、ピートの力を感じている料理人のひとりです。ピートを「未知の食材だった」と語る松尾さん。そんな松尾さんが、食材としてのピートを認めるまでに至った理由を取材しました。
プロフィール 松尾直幹さん
1982年1月22日生まれ。2001年帝国ホテル入社以降、20年にわたって勤務する。本場フランスのコンテストでも受賞歴を誇る、フレンチの名手。2022年6月に帝国ホテル・メインダイニング 「レ セゾン」副支配人から独立、2023年春にあきる野市にて、地産地消をテーマにしたフレンチレストラン「L’arbre」(ラ ルブル)を開業予定。
食材の旨味成分を、ピートが一体化してくれた
ーなぜ、ピートを料理に導入しようと思ったのですか?
松尾さん 私とピートの出会いは、テラウスジャパン・櫻井社長からの紹介でした。ウイスキーの香り付けに用いられるピートはすでに知っていましたが、食材としてのピートを聞いたのは初めて。その時点では、完全に未知の食材でした。でも、未知なものだからこそ、興味を惹かれたんです。料理人として使ってみたい、味を感じてみたいと思いました。
ー実際に使ってみて、いかがでしたか?
松尾さん ほぼ無味ですし、何に使おうか迷ったんですが、肉の料理で使うことにしました。それは、ピートパウダーとキノコと昆布のパウダーを豚肉にまとわせて1日マリネ、翌日に火を入れるというものです。もともとピートを使わずとも成立していたメニューだったのですが、試しに使ってみたら、なぜか前よりおいしくなったんです。
ー具体的に、どのようにおいしくなったのでしょうか?
松尾さん 一言でいうなら、旨味が増しましたね。特に、旨味成分であるキノコのグアニル酸、昆布のグルタミン酸の味が一体化しているように感じました。お客さんの反応は、「ピートって食べられるんですね」という意見もありましたが、「そもそもピートってなんでしょうか?」という質問の方が多かったです。その点でも、食材としてのピートはまだまだ開拓の途上にあると考えています。料理のおいしさは引き出せるけれど、ピート単体ではほとんど無味な訳ですから、ピートを使って料理の旨味をどう引き出すか。料理人の腕の見せ所ですね。
ピートの普及に必要な「付加価値」
ー新しくオープンされるレストランでも、ピートを使う予定はありますか?
松尾さん それは検討しています。新しく開くレストラン「L’arbre」(ラルブル/フランス語で「木」の意味)は、地元・あきる野市で採れる食材の地産地消をテーマにしたお店です。現地では私も畑を耕していまして、お店ではそこで採れた野菜を使います。野菜は無農薬・無化学肥料で育てていて、畑で使う堆肥は近所の山羊チーズ生産者の堆肥です。お店では、その農家さんから提供いただいたヤギチーズを使用します。このように、生態系に負担をかけず、地産地消の循環を作っていくことで、地域に貢献できればと考えています。
ー自然の食材という意味では、ピートも同じですね。
松尾さん はい。だからこそ導入を検討しています。あとは、価格の問題くらいです。「L’arbre」では、竹炭を食材に取り入れる予定なのですが、ピートは竹炭と比べるとどうしても価格が高いですから、それを乗り越えられるだけの付加価値を見つけられたら、と考えています。付加価値という点でも、これからの開拓が必要な食材ですね。その点でいうと、美容や腸活といった、健康的な側面からのアプローチができるのはひとつのアピールポイントになると思います。
ピートショールームでの料理教室も開催。ピートの新たな可能性を探求
ーテラウスジャパンのピートショールームで料理教室を開かれると聞きました
松尾さん はい、10月から12月にかけて、3回を予定しています。ピートを活用したメニューも展開する予定です。料理教室では「ホタテ貝のポワレ パルメザンの香る ピートのニョッキとほうれん草」というメニューでピートを使用するのですが、この料理の色は黄色と緑がメインになるので、ピートの黒色はいいメリハリになるんじゃないかなと思っています。
ー料理教室は以前もやられていたのですか?
松尾さん いえ、独立の準備を機にやってみることにしたことのひとつです。というのも、いままでは料理教室はもちろん、ほかのレストランのシェフと交流するような時間も取れませんでしたから。いまは、独立の準備をしつつ、色々なことにチャレンジする時間にしています。そのなかで、ピートを使った料理の可能性も、探求していけると良いなと思っています。